うちのクラスのカナメくん
−担任と保険医の会話−


いやあ、うちのクラスの生徒が二人も、ご面倒お掛けいたしました。
はい。はい。そうですね。大した怪我でなくてよかった。ええ。大杉に関しては、本当にいつもご迷惑お掛けします。僕も、上の学年の先生たちと連携をとって、事態を改善しようとはしているんですがね。とはいえ、流石に僕らも人間ですから。四六時中見張ってるってわけにも。ええ。もちろん、子供たちの安全が一番ではあるんですがね。

でも、驚きましたね。あの委員長が。
保健室に来たときは、どんな様子だったんですか?はあ、はあ、なるほど。
いや、僕が彼を気に掛けてくれってそう言ったんですけどね。え?委員長ですか?はい。中学の時の担任から引き継ぎを受けた時にそういう話を聞いていたんで。ええ。そうです。そうです。とても責任感が強くて、任されたことをちゃんとやる子だって。もちろんですよ。だから、1学期初めの委員長をお願いしたんですから。
僕が大杉のことを話したときは、それでも嫌そうな顔をしていたんですけどね。でも、結果として、こうやって見てくれてたんだから、やっぱりそうなんでしょうね。ええ。良い子ですよ。

席順の話?
はあ、ようやく先生にお話になりましたか。
あ、いえね。高校入学して最初だってので、名前順で座席は割り振ったんですが、何分、あいつ、大杉が大きいでしょう。通常だったら、後ろの席にやってしまうんですがね。初めにご家族と面談した時に、色々聞いてたんで。ええ。中学の時に、同じように上級生から呼び出しを掛けられてたって。本人はいたって良い子なんですがね。そういうことがあると、周りも自然と避けるようになるじゃないですか。しかも、パッと見の印象が怖いから。ええ。だから、最初のうちは名前順って理由もつけやすいし、みんなの真ん中に置いてあげた方が、彼にとってもいいんじゃないかって。はい。まあ、後ろの生徒が見えにくいのは確かに問題なんで、もちろん長くても1学期までと思っていますけどね。
でも、普通だったらすぐにクレームを言ってきてもいいものなのに。誰も言ってこないんですよ。ええ。いや、みんなビビっちゃって。ああ、もちろん僕じゃないですよ?大杉のことをね。はい。
ああ、違いますよ。あの髪は地毛です。地毛。はい。はい。そうなんですよ。ああ見えて、彼、ハーフらしくて。ええ。見えないでしょ?でも、そう言われればあの長身も分かるかなって。はい。

最近になってようやくみんな、彼が悪い奴じゃないってことに気が付いたみたいですね。隣りの席の、背の小さい彼女も、ちゃんと挨拶してましたよ。ほら、女子でいるじゃないですか。みんなに可愛がられてる。ええ。何の巡り合わせか、名前順で割り振ったら、隣りになっちゃったんですけどね。ええ。もう、怖がってる感じはないですね。
この間見てたら、飴を交換したりしてて。ええ。飴ちゃんですよ飴ちゃん。
あ、先生も気づいてました?そうなんです。彼、極度の飴中毒で。僕も初めて聞きましたけど。飴がないと落ち着かないらしいんですよね。はい。
いえいえ、暴れ出したりはしませんよ。ただ、格段に集中力が落ちるみたいで。彼、入試の時もこっそり食べようとしてたみたいですけど。ええ。もちろん没収されたみたいですよ。それで、うちに。そうなんですよ。嘘みたいでしょ?でも、本当に不思議なもんで、面談の時に試しにIQテストをさせてみたら、馬鹿みたいな数字が飛び出して。ええ。でも、飴を舐めてる時にしかできないって。本当、変わってますよ。彼。

いえいえ、また、保健室に来るようなことがあったら、呼んでください。
はい。いえ、こちらこそ。ええ。ありがとうございました。


END.